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#28 セイバーメトリクス講座 番外編 送りバント意味無い説

セイバーメトリクス講座投手編に進もうと思ったのですが、友達からリクエストがあったので一旦番外編に寄り道してから最終回の投手編にいくことにします。

タイトルにもあるように、番外編ではセイバーメトリクスの導入によって浮かんできた様々な疑問について僕なりの視点で考えていきます。

 

送りバントは無意味?

スモールベースボールが大好きな日本人からすれば衝撃的な説ですが、本当に送りバントは無意味なのでしょうか?

まずは、セイバーメトリクスでどのようなデータが判明したかご紹介します。

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送りバント無意味説の根拠は主にこの表にあります。無死1塁での得点期待値(0.821)とそこから送りバントをした場合の1死2塁(0.687)での得点期待値を見てください。得点期待値とはつまりその状況から攻撃側が平均して何点取ることができるかという値のことです。ちなみに最も点がたくさん入るのは無死満塁で、平均2.2点が期待できます。そしてその値が無死1塁から送りバントをして1死2塁にしてしまうことで逆に下がってしまうことがわかります。

さらに言えば送りバントができる状況を個別に見てみると、送りバントをすることで得点期待値が上がるのは無死1.2塁から1死2.3塁を作った場合のみです。その他の全てのケースで送りバントによって、得点期待値が減ってしまうんです。またバント失敗の可能性があることも考えると、果たしてこれは有効な作戦なのかという疑問にたどり着くというのがセイバーメトリクスの主張です。f:id:motokibaseball:20200919102224p:plain

ちなみに、得点確率というその状況から1点が取れる確率の場面別のデータはこちらです。場面によっては送りバントによって得点確率が上がる場合もあるので、終盤などにとにかく1点を取りたい場面では有効な作戦と言えるでしょう。しかしながら、ランナー1塁の状況ではバントをしても得点率は上がりません。

 

ではこれらのデータを踏まえた上で、果たして送りバントは本当に無意味なのでしょうか?皆さんはどう思いますか?

僕個人的には全くもって無意味だとは考えていません。無死1.2塁においては得点期待値を高める作戦になり得ますし、得点確率については微増ながらバントによって点数が入る確率が上がる場面もあることも事実です。そして何よりも僕が主張したいのは、バントをせずに打った場合にダブルプレーを取られるという最悪の事態を防ぐことができるからです。例えば8回裏2点リードの場面で自分たちが攻撃側だとして1死1塁でバントをせずにショートゴロダブルプレーをとられた場合です。3アウトチェンジでこのまま9回表の守備にいってしまったら流れとしては最悪だと思います。相手を乗せてしまって9回に3失点なんてことも特にアマチュアの野球ではよく見かけるようなケースではないでしょうか。

でもここであえてバントをしたらどうなるか。例え点が入らなかったとしても、得点圏にランナーを進めたところで攻守交代という風にでき、向こうに押せ押せの流れができることもありません。いわば相手に流れを渡さない”ディフェンシブな攻撃”の一つとして送りバントは有効な作戦になると僕個人的には考えています。こればっかりはその人の野球観や戦術的な好みにもよると思うので、なんとも言えませんが皆さんは送りバントについてどう思いますか?

 

②全員バレンティン(2013)対全員イチロー(1994)打線?

この疑問については今回参考にさせてもらった「勝てる野球の統計学」の第2章を丸パクリさせてもらいましたが、結論から言えば全員バレンティン打線の方が1試合した場合に入る得点は高いようです(バレンティン打線:11.94点 vs イチロー打線:9.89)。2013年はバレンティンがシーズンホームラン記録を塗り替えて60本打った年で、1994年はイチローが当時のシーズン記録である210本のヒットを打った年にあたります。

この2シーズンの比較に使われたのが、「RC27」という指標で1人の選手を9人並べて打線を組んだ場合に1試合すると何点の得点が期待できるかという値を計算できます(計算式は非常にややこしいので省略)。シーズンによっては例えば統一球問題などで点が入りにくかったり入りやすかったりするので、異なるシーズン同士を単純に比べることはできないとも本の中では注意書きがされていました。

ちなみに日本プロ野球の歴史で最も高いRC27を記録したのはあの王貞治さんだそうです。日本歴代RC27の上位9位までは全て王さんが独占しているそうで、10位には50ホームランを記録したシーズンの松井秀喜(元巨人・ヤンキースなど)さんがランクインしていました。イチロー選手の94年シーズンは意外にもトップ10にも入っていないんですね。これは単打を積み重ねるよりも長打をバンバン打てるタイプを並べたほうが点はたくさん入るということを暗に示している結果とも言えるのではと個人的には思います。

 

③2番最強説ってどういうこと?

これは数年前からメジャーで流行りだし、今では日本でも流行りつつあるトレンドで、2番にチームで最も良い打者を置くというオーダーですが、これも統計学的に解説していきます。

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2番最強説には様々な根拠があるのですが、まずは上の表を見て何に気づくでしょうか?この表はその打順からイニングが始まった場合の得点に関するデータをまとめたものです。得点確率・得点期待値ともに一番高いのはなんと2番から攻撃が始まった場合です。ここから読み取れることは様々ありますが、注目すべきは日本のプロ野球では1番から始まる打順が最も点が入りやすいわけではないということです。

これには実はカラクリがあります。日本の野球では2番は一般的には打力は低くてもいいからバントやゴロを打ったりすることで、とにかくつなぎに徹するという役割を求められることが多いと思います。しかしそれだと仮に1番打者が凡退してしまうと2番は打力がそこまでないので、ただの凡退に終わっていい流れで後ろに控えているクリーンナップに打順を回せないという状況が生まれるのです。どんなに優れた1番打者でも出塁率は5割もありません。2回に1回は1死ランナーなしで2番に回ってくるのです。そこで2番も出塁できないとなると、2死ランナーなしという、先ほど紹介した得点期待値・得点確率共に最も低い状況で、チームで最も優れた打者であろう3番に打順が回ることになります。

さらに言えば、日本の野球では比較的打力がある打者が置かれる5番6番よりも、2番打者の方が確実により多くの打席が回ってきます。なのにそこにいるのが打力の少し落ちる打者だと機会の浪費にしかなりません。良い打者がなるべく多く打席に立てるようにしたほうが、ホームランなどで一気に点が入る可能性も上がりますし、チームとしては得策のように感じます。

これらのことから考えると2番にも力のある打者を置いた方が、1.2番のどちらかが出塁してなるべくランナーを置いた状況でクリーンナップに回すという流れを作りやすいように感じます。メジャーではエンジェルスのトラウト選手やブリュワーズのイエリッチ選手などチームの主砲が2番を務めていますし、日本でも巨人では坂本選手や丸選手が2番を打ったりもしています。これは非常に理にかなった作戦と言えるでしょう。

打線を組む際には2番をつなぎと考えるのではなくて、チャンスメイクまたは1番が出塁したときには打ってチャンスを拡大できる能力のある選手を置きたいところです。つまり前回の野手編で紹介した「OPS」の高い選手が2番には求められるのです。

 

さて、3つの疑問についてセイバーメトリクス的視点から見てきましたがどうだったでしょうか?

なるほどと思ってもらえるものであれば幸いです。次回こそはセイバーメトリクス講座の最後として投手の指標を紹介していこうと思います。それでは。