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#29 セイバーメトリクス講座③ 投手編

いよいよ今回でセイバーメトリクスについての記事は一区切りとなります。最後は投手編です。導入編でもすでに触れたように、投手の能力を評価する指標としては勝敗、防御率奪三振数などがよくニュースなどでは使われているように感じます。そしてこれらは投手の能力を適切に評価できるかと言えば、それはクエスチョンマークが浮かびます。勝敗は味方打線の援護や、自身が降板した後の投手の力量にも左右されますし、防御率に関しては、失点ではなく自責点を使って計算するので多少は信用できるとは思いますが、それでも味方守備が打球処理を誤って記録上は内野安打になったりポテンヒットになったりと、投手の能力以外の部分にもそれなりに依存した指標でもあります。

勝敗:先発投手であれば5回以上を投げ、かつ自身が降板後も1度も相手チームに追いつかれることなく試合に勝った場合は勝ちが付き、自身が失点をしそのままビハインドを保って試合に負けた場合は負けが付く。リリーフ投手の勝ち負けの条件は割愛。

防御率自責点×9÷投球回数(その投手が1試合9イニングを投げ切った場合に何点取られるのかを表す)

自責点:投手の責任によっておきた失点のこと。野手のエラーが絡んで失点した場合は自責点はつかない

専門用語の解説はざっくりですがこんな感じです。もっとちゃんと知りたい人はご自身で調べてみてください。

 

さて、ではどういった指標が適切に投手の能力を示すものとして使われているのでしょうか。今回は2つご紹介します。

1つ目はWHIP(walk plus hit per inning pitched)です。英語を直訳すると分かるのですが、1イニングあたりに平均何人出塁を許すか(四死球+ヒット)のことで1.2を下回ると優秀とされます。これは、一般的に出塁を許すことが少なければ自ずと失点もしないだろうという観点から重宝されている指標です。今シーズンはセリーグは巨人の菅野投手(0.85)、パリーグ楽天の涌井投手(0.99)が現在トップです。ちなみに大リーグではツインズの前田健太投手がWHIP 0.75でなんと堂々の全体1位にランクインしています。

 

2つ目の指標はK/BBです。これは指標の表記そのままの意味で1つ四死球を与える間に何個三振を奪えるのかを表すものです。奪三振能力とコントロールの良さという投手自身の能力をそのまま計算に反映しているので、冒頭で述べたような味方の守備能力に影響されることなく投手の力を評価できます。こちらもセリーグでは菅野投手(5.94)、そしてパリーグは日ハムの有原投手(4.16)が現在トップです。細かい数字は出てきませんでしたが、カブスダルビッシュ投手は今シーズンのK/BBが15をゆうに超えるくらいの驚異的な数字を残しています。おそらくメジャー全体でも1位だと思います。

 

ここまでWHIPとK/BBを紹介しましたが、これに防御率を加えてこの3つを使えば投手の基本的な指標としてはカバーできていると思います。まだまだ他にもたくさん指標はあるのですが、あまり複雑なものを持ち込んでも仕方がないのでこの辺りで投手編は終わっておきます。

 

ここまで計4回にわたってセイバーメトリクスについて記事を書いてきましたが、かなりマニアックなので数字が苦手という人には取っ付きにくいものかもしれません。僕のようにこういう細かいことが好きな物好きな人は、ぜひさらに色々なデータを調べてみてください。メジャーリーグでは本当にいろいろな数字が扱われていて、もはや野球がある種マニュアル化されています。皆さんも目にしたことがあるであろう極端な守備シフトはその典型のようなものです。ゲーム性、戦略性があまりに高まるあまり、豪快なホームランや三振といった野球本来の楽しさが失われるのはダメですが、様々なデータを見ながら野球を楽しむというのもまた野球というスポーツの一つのあり方だと思います。