野球の未来

野球×科学

#45 メジャーリーグと日本プロ野球の選手移籍の違い

今回は日米比較シリーズ?ということで、オフシーズンにニュースになることが多いプロ野球選手の移籍事情についてメジャーリーグMLB)と日本プロ野球NPB)の違いを比べてみます。普段投稿しているような科学的な検証でも何でもないのですが、個人的にMLBが大好きで、今シーズンは特に日本人選手のMLB球団への移籍が成立したりしなかったりと色々あったので、良い機会だと思って日米の移籍制度の違いについてざっくりと書いていきます。

 

冒頭でも述べたように、今オフはダルビッシュ投手がトレードでシカゴカブスからサンディエゴパドレスに移籍になったり、日本ハムの有原投手がNPBからMLBのテキサスレンジャースへポスティング制度を利用して移籍になったりと、日本人選手のMLBでの移籍が比較的活発な年だと思います。

その中でも特にダルビッシュ投手のケースはチームのエースピッチャーがトレードで他球団に移籍するという、NPBでは考えられない移籍の仕方だということもあって日本での注目度が上がったのではないでしょうか。

これにはカブスの財政状況の悪化が絡んでいると言われており(カブスの球団トップはこれを否定しましたが)、カブスダルビッシュ投手を放出する代わりに、パドレスが抱えている有望な若手選手を複数名獲得しました。

 

つまりカブスは来シーズン勝つ事は諦めて、当分は獲得した選手を含めた若手の育成に専念し、経営状態も建て直しつつ数年後に勝てるチームを作る計画だということです。これはMLBではよくあることで、ファンの人たちも贔屓のチームが直近のシーズンを諦めて育成に舵を切っても、まあしょうがないかというように受け入れる傾向にあります(ヤンキースなどの常に勝利が求められる伝統球団を除いて)。逆にパドレスは自前の若手有望株を大量に放出して、数年先に負けが混むシーズンが来るリスクを背負ってでも来シーズンの優勝に懸けてきたということになります。

MLBのトレードではこのようになんとしても目先のシーズンを勝ちたい球団が買い手に回り、逆に数シーズン先を見据えて再建を図るチームが売り手に回るケースがシーズン中、オフにかかわらずよく見られます。

 

今回のダルビッシュ投手のケースとは違い、シーズン中に起こる主力と若手有望株のトレードにはFA(フリーエージェント)という別の移籍制度も絡んできます。FAとは所属球団との契約が満了して、他球団とも自由に移籍交渉ができる制度のことです。

これがどうシーズン中のトレードと関わってくるかというと、レギュラーシーズンで優勝争いをしているチームが最後のラストスパートをかけるために、あるいはレギュラーシーズン後のプレーオフも確実に勝ち上がるために、そのシーズンの終了後にFAになる他球団の選手を自チームの若手やその年のドラフト上位指名権と引き換えに、優勝のための”ラストピース”として獲得するのです。

FAになる選手を獲得する側としては、シーズン終了後にその選手が再び他球団に移籍するのを承知で、そのシーズンを勝ち切る可能性を高めることができますし、放出する側としてはどちらにせよシーズン後にFAで他球団に行く可能性が高い選手を早めに放出することで、トレード先から若手選手を獲得できるので、win-winの関係になるのです。

実はダルビッシュ投手はこのシーズン中のトレードのパターンで、数年前に当時所属していたテキサスレンジャースからロサンゼルスドジャースに移籍して、その年のワールドシリーズNPBでいう日本シリーズ)でプレーしています。

こうした移籍制度を背景にして、MLBでは強いチームと弱いチームが年々流動的に変わっていきますし、ヤンキースドジャースといった資金が豊富で常に勝つことを強いられている一部の伝統球団を除いては、プレーオフに進出する顔ぶれが数年単位でガラッと変わります。これもMLBの魅力の一つだと思います。

 

日本だとFA移籍をする権利を得るには高卒の場合だと10年、大卒や社会人経由での入団だと8年かかりますし、FAをする際も選手が自らFAとなる意思をNPB側に申請する必要があります(なので日本ではFA”宣言”と呼ばれます)。こうした移籍制度があるので、MLBのようにシーズン中にFA目前の選手がトレードされるケースがNPBでは起きません。そのシーズン後に本当にFAで他球団へ行くのかが分からないからです。

なので移籍があまり多くない分、強いチームはずっと強くて勝てないチームはずっと勝てないといったパターンがよく見られ、ソフトバンクのように日本シリーズを4連覇もする球団が現れるのです。

 

ところがMLBでは5年ごとに自動的に選手側からの申請無しでFAとなるので、こうしたトレードが毎シーズン起こります。

また、MLBはとにかく合理的で、経営戦略的にドライに選手の移籍を進めていきますし、選手たちもより高待遇を求めて移籍をしていきます。とにかく球団間の移籍が活発ですし、選手も移籍することに抵抗は少ないと思われます。

 

NPBでは対照的に、チームや地元への愛着といった感情の部分を重視して、ドライに移籍を成立させるといった事はあまり見られ無いと思います。選手もFAには申請が必要なので、それなりにバッシングを浴びたりするかもしれない覚悟を決めてFA移籍に踏み切らないといけないという側面があります。また、仮にFAをしてもどの球団も獲得に動かず、球団によってはFA宣言をした選手とは契約をもう結ばないとしているところもあるので、よほど力のある選手で移籍先が見つかることが確実な選手以外はFAをしにくいということもあるでしょう。

どちらが良いとか悪いとかではなくて、こうした移籍事情の違いがNPBMLBには存在します。ただ個人的にはNPBMLBのような移籍の仕方が増えるのはあまり見たくはありません。やっぱり自分が応援しているチームの選手が次々移籍するのは寂しいですし、ドラフトで獲ってきた選手たちが成長して、みんなで優勝して喜びを分かち合いたいというのが僕の率直な感情です。

とはいっても、他球団からニーズのある選手の出場機会を求めての移籍や、申請無しの自動FAというのは選手たちに与えられてしかるべき権利だとも思うので、多少のシステムの整備も必要だと認めざるを得ません。

 

とにかく、来シーズンの日本人選手のMLBでの活躍が楽しみです。特に有原投手が移籍したレンジャースは僕が今住んでいるところから比較的近いので、チャンスがあれば試合を観に行こうと思います。