野球の未来

野球×科学

#13 [論文] 重さの違うボールでの投球練習は怪我につながる?

今回はいま流行りの、本来の硬式ボールとは重さの違うボールを使ったピッチングトレーニングについての論文です。この練習法はアメリカのシアトルにある某トレーニング施設がきっかけで広がったもので、アメリカではもちろん、今オフには日本にも上陸して日本のプロ野球選手が指導を受けたというニュースも目にしました。シアトルに選手たちを派遣した日本の球団もあったようです。そんな日米の野球界を席巻しつつあるトレーニング法に着目したのがこの論文です。

 

論文では、シーズンが始まる前 (プレシーズン) に6週間のトレーニング期間を設定し、その間に2~32オンス (56g~907g) の重さの異なるボールで投球練習を行った場合の球速の変化と肩と肘の関節の可動域、そしてその後のシーズンでの怪我の割合を追跡しています。その結果、重さの違うボールでトレーニングを行なったグループはそうしたトレーニングをしなかったグループに比べて球速が3%上がった一方で、シーズン中の怪我の割合も25%高かったことが分かりました。つまり、ボールの重さを変える練習法は球速を上げるものの、怪我のリスクも同時に上がってしまうということです。

ここで着目したいのが関節の可動域です。肩と肘の可動域をこの研究では測定していますが、肩の外旋の可動域だけがトレーニングを行なったグループで顕著に広がっているのです。肩の外旋とは、投球時のいわゆる”トップ”のポジションで例えると、この時にどれだけ肘を背中側にひねることができるかを表します (図1参照)。つまり肩の可動域が広がったことで球速のアップに成功した一方で、可動域が広がることでその分より大きな力を生み出すことができる分、大きなストレスが肩関節を中心とした腕全体にかかることになります。これが球速と故障の発生率が同時に上がったメカニズムでほぼ間違いないです。というのも、肩の外旋可動域については、すでに他の研究でも球速と怪我のリスクとの関連性が報告されているからです。メジャーリーグで剛腕と言われる速球派の投手たちが次々とトミージョン手術を余儀なくされていることからもお分かりいただけると思います。

 

つまり結論としては、球速が上がればどうしても関節にかかるストレス自体も自然に大きくなるので、結果怪我をしやすいということです。これは重さの違うボールを使ったトレーニングが悪いということではなくて、速いボールを投げられるようになるということは、その分怪我のリスクもどうしてもついてまわるということを意味しています。

その中でいかにして怪我のリスクを最小限にとどめるのかは、正しい投球フォームを身につけること、筋力を十分に高めること以外にはあまり無いように現時点では感じています。次回は投球フォームについて少し切り込んでみようと思います。

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図1: この状態で肘から先をできる限り後方に倒します。これが肩の外旋です。

 

<参考文献>

Effect of a 6-week weighted baseball throwing program on pitch velocity, pitching arm biomechanics, passive range of motion, and injury rates. 

6週間の重いボールを使った投球練習が球速、腕の動作メカニズム、可動域、怪我の割合に与える影響