野球の未来

野球×科学

#44 野球部の走り込み反対派でも推せるラントレ

このブログでは再三にわたって野球選手の走り込み不要論を唱えてきましたが、それでも走り込むことに何のメリットもないわけではありません。ただデメリットがあまりに大きいために効率が悪い練習法だとして個人としては否定的な立場を取っています。

今回は、いわゆる一般的な「走り込み」によるデメリットを最小限に抑えてメリットだけを得られるラントレ(ランニングトレーニング)を、走り込みのメリット、デメリットももう一度おさらいしながら紹介したいと思います。

そのトレーニングとは、「タバタ・プロトコル」と呼ばれるもので世間では「HIIT」などと呼ばれたりもしています。

僕の母校でもある立命館大学スポーツ健康科学部教授の田畑先生が開発された超高強度のインターバルトレーニングで、わずか4分で心肺機能を極限まで追い込むことができます。元々は田畑先生がスピードスケート選手のために考えられたメニューなのですが、今では水泳や陸上などの心肺機能を必要とするスポーツ選手の間でかなり積極的に取り入れられていますし、アメリカでも「タバタ」と言えば通じるくらい超メジャーなトレーニングとなっています。

では具体的にどういった内容のトレーニングかというと、20秒間スプリントやバーピージャンプなどの超高強度運動を行って10秒間休憩、そしてまた20秒動いて10秒休憩というセットを合計8セット行うというものです。30秒(20秒運動+10秒休憩)×8セットで240秒(4分)で全て終わるのですが、考えられないほどしんどくて、かなり追い込まれるメニューです。僕が田畑先生の授業を学部生時代に取っていた時に課題として友達同士でやったのですが、4分で死にそうになりました。笑

このタバタ・プロトコルのいいところは、短時間の運動なのに心肺的持久力と筋持久力の両方が6週間で20%前後も飛躍的に伸びるところにあります。通常の長時間に及ぶ走り込みだと、長時間かかるがためにその間ずっと筋肉分解が起こってしまって、本来野球選手が必要な大きな体を作ることを邪魔してしまいます。ところが短時間で終わることができれば筋肉を分解する時間も短くなりますし、浮いた時間を他の技術練習に充てることもできるので非常に練習の効率が良くなります。

そして持久的な能力がつけば、ピッチャーであればより長いイニングや球数を投げ切ることが可能になりますし、野手も試合終盤にバテて力が出ないということも避けられるでしょう。また、あまり知られていない有酸素性持久力(心肺機能)のもたらすメリットとしては、リカバリー能力の強化というものもあります。どういうことかというと、試合や練習終わりに体に溜まる疲労を次の日になるべく持ち越さないようにする機能が向上するのです。筋肉痛があまり来なかったり、疲労によって発揮できる筋力が落ちてしまうといったことをある程度回避できたりします。これは連戦が続くアマチュアのトーナメントや、プロのペナントレースにおいても非常に大事な能力になるでしょう。

ところがこの持久力を長時間に及ぶ走り込みでつけようとしてしまうと、さっきも言ったように野球の打撃守備走塁に関わる技術練習に充てる時間も減り、野球選手に必要な速筋繊維(瞬間的に爆発的な力を発揮する筋肉)が小さくなって遅筋繊維(長い時間比較的弱めの力を発揮する筋肉)が優位になってしまい、結果として体が大きくならないといったような野球選手にとってあまりに大きすぎる代償がついてまわります。野球をする上で最優先である瞬発系の能力と技術練習を二の次に回してまで、決して優先順位の高くない持久力系の練習に時間を使うのはさすがに論理性を著しく欠くというのが、僕が走り込みを要らないとする理由です。

シーズンオフになると、まるで陸上部かのように徹底して朝から晩まで走り込みを行うチームもあるかと思いますが、それは野球選手のフィジカル強化としては方向性が間違っているし、科学で証明されているやり方の真逆をいっていると言わざるを得ません。

しかしながらタバタプロトコルであれば、そうした間違ったフィジカル強化メニューのデメリットを排除しつつ、本当に必要なメリットだけを美味しいとこどりすることができるので、走り込み反対派の僕でも大賛成の持久力トレーニングということになります。

このタバタプロトコルはバラエティー豊富にメニューを組むことができるので、ぜひ自分なりの「タバタ」を作って試してみてもらえればと思います。基本的にはスプリントやジャンプなど爆発的な動作を伴う種目であればメニューに取り込めると考えてもらって構いません。

下半身であれば器具有を使わずに体一つで簡単にできますし、上半身であってもメディシンボールなどをうまく使って工夫をすればメニューを組めると思います。8セット全てで違う種目を行ってもいいですし、4種目を2周やるのもアリです。

また野球選手は打つときも投げる時も基本的には上半身で「押す」動作が中心になるので、その辺の野球というスポーツの特徴まで考えてメニューが組めれば言う事はないでしょう。