野球の未来

野球×科学

#43 技術にこだわりが強すぎる職人の国、日本

カッコつけたタイトルになってしまいましたが、今回はアマチュアの日本人野球選手の特徴を、僕がこれまで見てきたアメリカの野球と比べながら書いていきます。

まず何よりも強調したいのは、日本のアマチュア選手の技術レベルは僕が知る範囲では相当高いということです。技術自体が高いというよりは、とにかくひとつひとつの動作を本当に丁寧にこなせるという表現の方が正確かもしれません。ノックなどを見ていても、怠慢なプレーをする選手はほぼいませんし、そんなことが起これば指導者の方がめちゃくちゃ怒ると思います。

一方で海外の選手はというと、ノックのときの球際が雑になってしまったり、ファンブル後の送球がめちゃくちゃになってしまったりということがよく見られます。ここは本当に文化が違うなと思うのですが、とにかく日本のシートノックはすごく丁寧だという印象です。

この違いから僕が思うのは、日本人は野球以外の物づくりや普段の生活においてもすごく几帳面で、細かいところまできっちりとやりたがる傾向が強いということです。それ自体は全くネガティブな事ではなく、むしろその細部にわたるきめ細やかなこだわりが日本という国をここまでの先進国にしたという面もありますし、職人さんがたくさんいる日本人の国民性をよく表していると言えるでしょう。

ただ、こと野球に関して言えば技術へのこだわりや探究心が強すぎるがあまりに、一番の土台にあるのはフィジカルだということを忘れてしまっている選手や指導者の方も多いのではないでしょうか。

特にアマチュアレベルであれば尚更、細かい技術の前にまずは体をしっかりと作って、強いスイングができるように、強いストレートが投げられるようにするのが先だと個人的には思います。アマチュアの早い段階からあまりに技術にこだわり過ぎてしまうと、小さくまとまった個性のない選手が大量生産されてしまうだけのように感じます。

”溜め”を作って”割れ”を意識して、そこから”前の壁”を意識して最後に腕を振るといったピッチングの考え方も一つではありますが、それよりもまずはフォーム云々の前にスクワットを体重×1.5kgは挙げられるようにとか、技術的なチェックポイントにしてもより数を少なくシンプルにしてもいいんじゃないのかなと思います。

たまにプロ野球の試合の始球式に来るやり投げの選手が、ものすごい身体から140km以上の球を投げたりするのがいい例だと思います。技術的な観点から見ればピッチングフォームは少し変でも、実際にあれだけの球を投げることができるというのはいかにフィジカルの強さが大事か、ということを表しています。

技術に関しては自分の競技レベルが上がって、レベルの高い指導者に巡り合えば後からいくらでもつくと思うので、まずは投球に耐えうる強い体を作ることがアマチュアの、特にジュニア選手などは必要ではないでしょうか。

また、野球だけにこだわり過ぎるのもどうかなとアメリカに住んでいると思います。一つのスポーツだけを極めようとするよりも、幼いうちは野球以外にも水泳やサッカーやバスケなど、複数のスポーツをしていた方が神経系が発達して、結果的に野球だけをしている人よりもいい野球選手になれるといったことも科学的に議論されているくらいです。

アメリカでは中学高校ではもちろん、大学でも野球部とアメフト部を掛け持ちしているアスリートも珍しくありません。ついこの前なんかは、大学のアメフト部(男子)のキッカーが不足した時に女子サッカー部のゴールキーパーが急遽アメフトの公式戦のキックを務めたのも話題になったほどです。

一つのものだけと向き合ってひたすら技術を極めるのはいかにも職人気質で日本的ではありますが、いろいろなスポーツに触れて”運動神経”を磨いていくのも実は効率の良いアプローチだったりする訳です。

他のスポーツでの動きや技術が野球に応用できることもあるでしょうし、野球以外のことをするのが良い息抜きになったりすることもあると思います。とにかく、一つのことだけをやり抜くことだけが最短の道ではないということです。

 

ここまでアメリカとの比較で大きく分けて2点、日本の野球について書きましたが、何もアメリカで行われていることが全て正しいとは思っていません。

ただ、アメリカに限らず他の国の例を参考に、いいところがあれば積極的に取り入れていくという柔軟な考えが大事なのではと思います。