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#14 [論文]怪我を予防する正しい投球フォームとは?

今日は怪我をしないための投球フォームについてです。怪我をしないとは言っても、投球動作自体がすでに体 (特に腕)にとって負担のかかる無理のある動作ですし、かなりのストレスをかけるので完全に回避するのはほぼ不可能です。だからこそオーバーユーズにならないように球数をきちんと制限していくことが最も重要だと言えます。その上で、怪我のリスクをなるべく下げるための投球フォームを考えたときに全身の連動性がひとつキーポイントになります。今回は僕が授業でプレゼンテーションの題材にした下半身の動きと腕の怪我の関係に注目してみようと思います。

 

まず下半身の動きがどのように腕の故障に関わっているのかというと、それは初めに言った体の連動性が関係しています。腕になるべく負担をかけずに投球することができれば、それは怪我をしにくい投球フォームだと言えます。腕になるべく負担をかけないためには、下半身の動きでなるべく大きなパワーを生み出して、それを上半身に効率よく伝導させることが必要で、それによって腕で余分なパワーを生む必要がなくなります。これが連動性 (専門用語では運動連鎖と言います)です。このパワーが伝導するプロセスを挙げていくと、脚→臀部→腰(体幹部)→上腕→前腕→手→ボールの順になります。つまり、脚部の動きは投球動作における運動連鎖の一番初めのパートになります。この時に、より効率的にパワーを伝導させるために必要な脚のメカニクスが僕の知る範囲では2つ考えられます。それが、

1) 脚の着地からボールリリースの瞬間にかけての踏み出し脚の膝の伸展

2) 広いステップ幅

です。膝の伸展とは簡単に言えば膝をピンと伸ばすことです。短い時間で爆発的に膝を突っ張ることでより大きな力が膝からお尻に伝わります。そして、ステップ幅は少なくとも身長の50%の長さは必要で、プロの投手ではこれが身長の80%~85%に達するそうです。このステップ幅をキープすることで腰の回転がよりパワフルになり、大きなパワーが上半身へと伝わります。つまり、この2つの動きを達成できればより効率的にパワーが体幹部に伝えられるのです。ただ、今シーズンからミネソタ・ツインズに移籍した前田健太投手は自身のYouTubeチャンネルで広すぎるステップ幅ではうまく力が伝わらないともおっしゃっていたので、自分に合った適切なステップ幅を見つけることが大事かと思われます。

 

ちなみにこの2つの動きは年齢とプレーレベルが上がるにつれて改善されていくことが分かっているのですが、これは筋力の増加が要因として考えられます。ですので、正しい下半身の動きを身に付けるためには下半身の筋力トレーニング(走り込みではなくウエイトトレーニング)が最重要で、その上でフォームを作っていく必要があると言えるでしょう。筋力の足りないジュニア選手は、フォーム矯正の前にまずはきちんと球数を管理して体に無理のない範囲で練習をするのが大事だと思います!

 

参考文献

Milewski, M. D., Õunpuu, S., Solomito, M., Westwell, M., & Nissen, C. W. (2012). Adolescent baseball pitching technique: lower extremity biomechanical analysis. Journal of applied biomechanics28(5), 491-501.

Matsuo, T., Escamilla, R. F., Fleisig, G. S., Barrentine, S. W., & Andrews, J. R. (2001). Comparison of kinematic and temporal parameters between different pitch velocity groups. Journal of applied biomechanics17(1), 1-13

Crotin, R. L., & Ramsey, D. K. Influence of stride length on mechanics of pitching

https://lermagazine.com/article/influence-of-stride-length-on-mechanics-of-pitching