#4 [論文]ホームランの打ち方
今回はすごくシンプルなタイトルです。
僕個人的には、野球の基本(醍醐味)は三振かホームランだと信じています。(茂野吾郎くんも言ってました)
そこで、実際に試合でホームランという”現象”を起こすために必要な要素について、物理学者の方が書かれた論文を見てみたいと思います。この論文は、野球のスイングと投球されたボールのコンタクトや打球飛距離等を極めて物理的に、数式やシミュレーションを用いて分析しているとても面白い論文です。
ホームランを打つために影響する要素
- 投手の投球速度(速ければ速い方が遠くに飛ぶ)
- 打者のスイング速度
- 打球の打ち出し角度(ある程度の角度の範囲に打球を飛ばさなければ、ホームランにならない)
- バットのスイートスポット(芯)で捉えたかどうか
この4つが主にホームラン、要はいかに打球を遠くに飛ばせるのかに関わる要素だそうです。まあそりゃそうなるか、という感想を受けられるかもしれません。
その上で、面白い記述がいくつかあったので紹介します。
- 打球をバックスピンさせ、かつ打球角度をつけるために「ボールの中心の少し下を、若干のアッパースイングで打つ」バットスイング軌道が必要(詳細:ボールの中心から2.65cm下を打ち、約8.6°上向きにバットを振り上げる。)
- スイング速度が一番大事(打者は何よりも優先してスイング速度を向上させることに取り組まなければならない)
- インパクト時の手首の返しは飛距離にさして影響しない
- カーブボールは、ストレートやナックルボールよりも遠くに飛ぶ(詳細:カーブはトップスピン、ストレートはバックスピンで投球されるが、打者目線から見ればスピン方向は真逆になり、カーブはバックスピン方向、ストレートはトップスピンに見える。すると、それぞれのボールをバックスピンで打ち返したい場合、カーブはスピン方向を変えることなく飛んでいくため、投球によって生まれたバックスピンをスイングによってより加速させることができるが、ストレートは回転方向を真逆に変えて打ち返されるため、打球のスピン量がカーブに比べて増えにくい。すると、結果打ち返したボールのスピン量が多いカーブの方が遠くに飛ぶということになる。);飛びやすさ順(カーブ>ナックル>ストレート)
この4つの記述は個人的にはとても興味深かったです。その中でも特に1と3は面白くないですか?
まず1番。物理的な原理からみてもいわゆる”大根切り”と言われる上から下に振り下ろすダウンスイングは間違っているみたいです。バットは"わずかに"下から上にアッパースイングで振り上げるのが一番正しいということです。
3番は個人的に一番衝撃的です。よく打つ時の手首の動き(雑巾を絞るようにとか、ボールを押し込むようにとか)を指導されることがあると思いますが、実はあまり重要な要素ではないみたいです。それよりも日々の素振りや筋力トレーニングを通して、スインング速度を高めることに重きを置いた方が良さそうですね。
色々難しく書いてしまいましたが、要は適切な角度に、十分なスイング速度を維持しつつバットの芯に当てて打ち返せばホームランが打てるということです。その上で、より簡単にホームランにできるのは、カーブやスライダーといったトップスピン系の変化球です。流行りのツーシームやスプリットはトップスピン系ではなく、バックスピン系または無回転に近いのでこれには当てはまりません。こう考えるとツーシームは、「バックスピン系でかつバットの芯を巧みに外す」ので最もホームランされにくい球種と言えるかもしれません。
また、余談ですがここで述べたホームランを打つために必要な要素を指標化したのが、メジャーリーグで最近注目されている”バレル(barrel)”です。これはフライボール革命と言われるここ2~3年のメジャーリーグのトレンドが生み出した新しい指標です。おいおいセイバーメトリクスといわれるこれらの指標についても触れてみようとは思いますが、興味のある方はぜひ調べてみてください!
参考文献:
Sawicki, G. S., Hubbard, M., & Stronge, W. J. (2003). How to hit home runs: Optimum baseball bat swing parameters for maximum range trajectories. American Journal of Physics, 71(11), 1152-1162.
「ホームランの打ち方:適切なバットスイングのパラメーター」