野球の未来

野球×科学

#41 体を大きくする(バルクアップ) 実践編

前回に引き続いてバルクアップについて、今回は実践編という事で、実際にどのような食生活を送れば良いのかについて僕なりにアイディアを提案していきたいと思います。

ポイントとしてはターゲットがプロなどではなく高校生であるという事(トレーニング初心者で、かつ経済的な余裕もプロほどでは無い)と、ご飯を作らなければならない親御さんの視点にも立って、理想と現実の妥協点を探りながら考えていきます。

まず朝ですが、起きたらすぐにホエイプロテインを水で割って飲みます。寝ている間に体内の栄養素が枯渇しているので、筋肉が分解されるのを防ぐためにも素早く体に吸収される水にプロテインを溶かして飲んでください。このときに牛乳や豆乳でシェイクを作ってしまうと、体内に吸収されるのが遅れる事、そしてお腹を下してしまう可能性があることから、水で割ることをお勧めします。

そして20−30分後にプロテインシェイクが体内に吸収されてから朝食を取れれば理想です。朝ギリギリにしか起きられないという人は、プロテインと食事が一緒になってしまっても最悪オッケーです。

朝食には、パンでもご飯でも好きなものでいいので主食となる炭水化物は必ず入れてください。朝から食べられないという人はバナナでも構いません。とにかく炭水化物を摂って、体を動かす”ガソリン”を体内に入れることが大事です。ここにおかずとしてお肉があれば、朝食としては完璧です。

お弁当には昼食用のお弁当に加えて、鶏そぼろや鮭などタンパク質を多く含む具材のおにぎりを2−3個持たせてあげられれば、朝と昼の間と、昼と夜の間(おそらく練習後)の間食として食べられるのでいいと思います。理想としては3時間おきに栄養が体に入れば筋肉を失うことはありません。

昼食用のお弁当の中身としては、炭水化物(米やいも等)とタンパク質(肉、魚、豆類)をしっかりと入れてください。野菜に関しては、特に入ってなくても構いません。野菜はほとんどが水分で、そこに微量の栄養素が入っているだけなので、バルクアップにおいては特に必要なものではありません。むしろ水分でカサ増しされてしまって、食べられる量が減ってしまいます。また、お弁当の彩りを気にする方も多いとは思いますが、無い方がかえっておかずを作る手間も省けますし、野菜は無駄に入れない方が実は選手にとっても親御さんにとってもウィンウィンになります。

夜ご飯も基本的には同様に、炭水化物とタンパク質をしっかりと補給できる献立にすれば良いのですが、ここで魚をメニューに入れると練習で疲労した筋肉の回復を助けてくれるので、より良いメニューになります。

最後に寝る前にホエイプロテインを飲んで1日の栄養摂取は終わりです。ここでは水割りでも、牛乳割りでもお好みで良いと思います。ただコーヒーなどカフェインを含むもので割ってしまうと、睡眠を阻害してしまうのでそれはお勧めできません。

 

各食事ごとの炭水化物とタンパク質の摂取量については体重にもよりますが、できればお茶碗2杯分(大体1−1.5合ほど)のお米と150gほどのお肉や魚(タンパク質20−40g)を朝昼晩と各食事で摂取できればいいかと思います。

とにかく目標は、体重1kgあたり2g以上のタンパク質の摂取と、総摂取カロリーの20−30%くらいの脂質、そして残りを炭水化物で補うという目安をクリアする事になります。

脂質については通常の食生活を送っていれば、ジャンクフードや揚げ物ばかりを食べない限りは大体25%前後に自然に落ち着くはずなので、特に気にして考えなくても良いと思います。

集中すべきはタンパク質の摂取量と総摂取カロリーが推定の消費カロリーを超えているかどうか、になります。面倒かもしれませんが、初めのうちはタンパク質の摂取量が足りているかどうかを、食べた食材のタンパク質含有量を調べてチェックすることをお勧めします。慣れてくると大体感覚でわかってくるので、この作業は必要ではなくなります。

また、毎朝起きてすぐに体重の変化をチェックすることは継続して行う必要があります。体重の増え方によって毎日の摂取カロリーが十分かどうか、あるいは行き過ぎていないかをチェックできます。

 

次にサプリメントについてです。サプリメントの種類は無限にありますし、僕もまだまだ勉強しているところですが、高校生の段階でも摂って欲しいサプリを3つピックアップしました。

まずはホエイプロテインです。これは既に1日の食生活の流れのところでも挙げましたが、マストになります。激しい練習で筋肉の分解が進んでしまうので、きちんとタンパク質を補給しないと体は大きくなりません。タイミングとしては朝起きてすぐ、ウエイトトレーニング前か後、そして寝る前になります。この3回取れれば理想的かと思います。

ちなみに、プロテインパウダーというのはチーズを作るときに同時にできる上澄み液からできているので、薬品ではないですし、極めて安全な食品由来の製品になります。国際栄養学会でも安全性のランクはトップのAクラスと判定されています。

2つ目のサプリメントクレアチンです。聞き馴染みの無いものかもしれませんが、これもプロテインパウダーと並んで安全性Aランクに分類された物質で、牛肉に微量含まれていますが、十分ではありません。1日に5g摂取する事で筋力アップや筋肉の回復などを促進してくれるので、効率的に体を大きくできます。また、何度も強調しますが決して危険な化学薬品などではありません。クレアチンを取るタイミングとしては特に指定はありません。1日のうちのどこかで2−3回に分けて合計5g補給できると良いです。

3つ目はマルチビタミンになります。前回の理論編で書いたように、ビタミンやミネラルというのはタンパク質を筋肉細胞内に取り込んで筋肉を作るのを助ける働きがあるため、非常に大切な栄養素になります。これが無いと大量のタンパク質が体内に入ってきたときに、うまく筋細胞内に取り込めず、体の外に流れ出ていってしまいます。また、野菜など食品からは十分な量を摂取できないので、サプリメントで補給する必要が出てきます。マルチビタミンサプリメントにはその名の通り複数種類のビタミン(マルチ)が含まれていて、これ一つを買えば基本的にはある程度の量のビタミンを錠剤で補給できます。摂取のタイミングとしては食後に必要量を取れれば良いと思います。必要な量はマルチビタミンのメーカーや種類によっても変わってくるので、その指定に従ってください。

ちなみに、例えばビタミンCを必要量食べ物から摂取しようとすると、毎日レモン丸々一つを食べないと追いつかないほどです。これを考えるとすべてのビタミン(A B C D等)を食べ物から取るのは現実的では無いですよね。笑

以上が厳選した、高校生でも摂ってもらいたいサプリメント3つです。どれもサプリメントの中では比較的安く買えるのでお勧めです。3種類全て買っても月に5千円もかからないと思いますし、3種類とも現在学生の僕でも十分生活費の予算の範囲で買えているものになります。

 

ここまで2回にわたって高校生が体を大きくする方法について考えてきました。僕の専門は栄養学やトレーニング学ではなく動作解析なのですが、野球のピッチングやバッティングでパフォーマンスを左右する特定の動作をできるかどうかは筋力に依存することがかなり多いです。どういうことかというと、筋力のない選手は良いパフォーマンスがしたくてもできないということです。ピッチングを例に挙げると、投球時のステップ幅は広いほうが良い(身長の85%ほど)のですが、下半身の筋力が弱いアマチュアの選手はこの85%のステップ幅で投球することができないのです。つまり野球というスポーツは、技術を磨く時ですらフィジカル的な強さが必要条件になります。これは個人的な考えですが、フィジカルの強さは技術的なうまさを遥かに凌駕すると思いますし、特に高校生の段階においては技術を磨くよりもフィジカルを強化することで、結果として選手としてレベルの高いところに到達できる可能性が上がるのでは無いでしょうか。ぜひ、運動栄養休養の3つをしっかりと管理してフィジカルを伸ばしてもらえればと思います。

それでは。

#40 体を大きくする(バルクアップ) 理論編

体がなかなか大きくならずに悩んでいるという中学生、高校生、あるいはその親御さんは多いと思うので、今回はどうやって体を大きくすれば良いのかについて考えていきたいと思います。初回は理論編ということで、栄養素の摂取量についてどれくらいの量や割合で食べればいいのか、数値で紹介していきます。次回は実践編として、どうやって必要な量の栄養素を摂取していくか具体的にご紹介します。

 

ではまずは理論編です。

 

そもそも体を大きくする、体重を増やすということのメカニズムですが、いくつか前の減量についての記事でも書きましたが、カロリーバランスが1番の根底にあります。摂取カロリーが消費カロリーを上回ることでエネルギーを体内に貯蓄できるので、体重が増えていきます。なので、まずは1日に必要な摂取カロリー量を計算する必要があります。

keisan.casio.jp

このサイトを使って、今の体重を維持するのに必要なメンテナンスカロリーを計算してみてください。そこに+500をすると筋肉を増やしつつ体を大きくするために必要な摂取カロリー量になります。僕の場合だと2974kcalがメンテナンスカロリーになるので、約3500kcalが増量に必要な摂取カロリーという事になります。このペースでカロリー摂取を続けると1週間に1kg弱ほどは体重が増えていくはずです。体重が増えなければ、もう少しカロリー摂取をする必要がありますし、あまりに急激に体重が増えたという事であれば逆に摂取カロリーを減らす必要があります。そこは実際にやってみてからの微調整という事になります。

 

そして、そのカロリーを供給する3大栄養素が皆さんご存知の炭水化物(糖質)、タンパク質、脂質であり、炭水化物とタンパク質は1gあたり4kcal、脂質は9kcalをもっています。つまり同じ重量を摂取しても脂肪から取るとカロリーはその分増えるという事になるので、体重を増やすのも簡単にできるかもしれませんが、脂質が多い食事だと筋肉ではなく脂肪ばかりがついてしまうのでおすすめはできません。

それに対してタンパク質は筋肉を作る材料となり、炭水化物は体を動かすためのエネルギー源となるのでこの2つはしっかりと摂取量を高める必要があります。脂肪も取りすぎはダメですが、ある程度は取らないとホルモンの分泌がうまくいかなかったり、体内の細胞の形成がうまくいかなかったりするので全く取らないのもよくありません。

では各栄養素どれくらいの摂取量が必要になるかというと、まず脂質は摂取カロリー全体の10%が最低必要な量になりますが、それだとかなり食生活に制限が出てしまうので20−30%くらいの間に抑えたいところです。脂質の代表例としては油になります。取りすぎに気をつけないといけないので、揚げ物や大量の油を使っての炒め物などは避けられるといいかと思います。逆に体に良い油というのもあり、魚やアボカドに含まれる油やオリーブオイル、ココナッツオイルなどは体内で体脂肪に変わりにくいものなので献立に積極的に活用してもらいたい食品です。ただ脂質である事には変わりはないので、取りすぎはやはり要注意です。

次にタンパク質は体重1kgあたり2g以上は確保できればいいと思います。体重60kgの選手だと1日に120gが目安になります。肉や魚、豆などに多く含まれます。プロテインパウダーに加えて、これらの食品を毎回の食事の中に組み込めれば理想です。

そして残りを炭水化物で補う形になります。この計算でいくとおそらく摂取カロリーの40−60%ほどが炭水化物という事になりますが、パンや米、芋などに多く含まれる栄養素になります。

 

ちなみにこのグラフは僕のバルクアップ期間(増量時)の食事の3大栄養素の内訳です。これくらいを参考にカロリー摂取を考えてもらえれば良いかと思います。

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ここまでが摂取カロリーを構成する3大栄養素の摂取目安の話でした。ここからはビタミンとミネラルを含めた5大栄養素についてもう少し掘り下げていきます。

 

ビタミンとミネラルはカロリーはもちませんが、筋肉を作る上では重要な働きをします。具体的には、これら2つの栄養素は筋肉を作る際にタンパク質を筋肉内の細胞に吸収して、筋肉を合成したり、あるいは筋肉が激しい運動によって分解されるのを防ぐ役割があったりします。なのでいくら高タンパクの食事をしていても、この2つの栄養素もきちんととっていないと体内で吸収されずに、外に排泄されてしまいます。

つまり、筋肉を効率よく作っていく上で非常に重要な栄養素がビタミンとミネラルになります。ビタミンの中でもBやDなどそれぞれに異なる役割があるのですが、説明していると複雑になりすぎるのでここでは省略します。そしてミネラルとは具体的にはマグネシウム亜鉛、鉄分等のことを指しますが、これらも細かな役割の説明は省略します。

とにかく、これらを含めた5大栄養素全てを適切な量摂取する事で体を大きくすることができるということを理解してください。

 

以上が理論編です。次回は実践編ということで、どのような食べ物をどの程度どのタイミングで摂取すればいいかについて紹介します。

 

#39 今後の論文レビュー記事の方向性と執筆中の卒業論文のテーマについて

こんにちは。今回は今後のブログ記事の方向性について、最近の近況について紹介しつつ書いていこうと思います。

もしかしたらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここ最近の僕が紹介する論文はピッチングに関するものが続いています。これにはいま僕が取り組んでいる卒業論文修士論文)が関係していて、その論文のテーマがピッチングのパフォーマンスについてなので、自然とピッチングについて書かれている論文ばかりをここ最近は読んでいるからです。そのおかげもあって、随分とピッチングの研究については知識が増えました。

ということで、これからの論文レビュー記事はピッチングばかりになっていくと思いますが、何卒よろしくお願いします。今後バッティングについての論文も興味が湧けば読むこともあるかもしれないので、その時はしっかりとこのブログで記事にまとめるようにします。

 

ここからはざっくりと僕の卒論のテーマについて、いま頭の中に入っている情報を噛み砕いて紹介していきます。

まず論文のテーマはというと、「垂直跳び時の下半身のパワー発揮と、投球時の下半身と体幹部の動き及びパワー発揮との関係について」となります。これには垂直跳びテストのデータから、その投手の実際の投球パフォーマンスを予測することはできるのかということについて明らかにしたいという目的があります。

メジャーリーグのおそらくほぼ全ての球団では、シーズン前の春季キャンプで全選手の身体能力テストを行うのですが、その中に垂直跳びはほぼ必ず含まれます。野球以外のスポーツ、例えばアメリカンフットボールの新人合同トライアウト(通称NFLコンバイン)なんかでも垂直跳びテストは取り入れられています。

その垂直跳びテストの結果が投球パフォーマンスと関係しているというのであれば、今後もこのテストは続けていくべきですが、逆になんの関係もないとなると野球選手に対して続ける意味はないのではないかという結論が得られます。

これまでの研究では、野手に関しては垂直跳びで測定された下半身のパワー発揮とその選手の長打率、ホームラン数、盗塁数などとが相関関係にあることが分かっています。つまり垂直跳びテストにおいて下半身でより大きなパワーを発揮した選手は、ここで挙げた野球のパフォーマンスの指標も良い成績だったということです (*1; 参考文献参照)。

ちなみに「垂直跳びで計測される下半身からのパワー」というのは、ジャンプの高さだけでなくその選手の体重や身長も加味されて計算されます。つまり小柄な選手が高く飛んだからといって、それよりも低いジャンプをした大柄な選手よりも大きなパワーを発揮したかというと、決してそういうことはなく、その他の身体情報も踏まえて「パワー」というものが算出されるのです。

さて本題に入りますが、これがどうピッチングパフォーマンスに影響するかというとそれがまだ分かっていないのです。だからこそ、僕が研究テーマとして扱うことができるという一面があります。

今のところ分かっている事としては、垂直跳びにおけるパワー発揮の結果から投球によって起きる怪我のリスクがある程度予測できるそうです。一例を挙げると、垂直跳びは一旦しゃがみ込んで反動をつけてからジャンプしますが、そのしゃがみ込んだ状態からジャンプの踏切までの間に下半身で発揮するパワーが小さい選手は肘の故障リスクが高いそうです (*2)。ただ、ここで皆さんが「なぜ?」と思ったように、どうしてこういったことが起こったのかはまだ分かっていません。どうして下半身のパワーを測定する垂直跳びの結果と肘の故障が関係するのか、不思議ですが面白いと思いませんか?

おそらく下半身のパワー発揮が小さいと、上半身(特に腕)でその分の不足している投球に必要なパワーを補う必要があるので、上半身の投球メカニクスをどうにか変化させた結果、肘に過剰なストレスがいったという「推察」はできますが、じゃあ具体的にどこがどう変化したのかがまだ分からないので、そこを僕が今回発見できればと考えています。

また、怪我ではなくパフォーマンスとの関係としては、垂直跳びでの結果が投球時の球速とどう関係しているかについて報告した研究は今のところありません。ちなみにハンドボール選手を対象とした研究では、下半身のパワー発揮とハンドボールの投球の速度が比例していることは確認されています (*3)。やはり、下半身で大きな力を生み出すことが投球パフォーマンスにおいて有利になることは間違いなさそうですが、野球選手を対象にした研究も行っていく必要があります。

 

以上がざっくりとした僕の研究の背景です。かなり込み入った情報を書いてしまいましたが、理解できる方が少しでもいらっしゃれば幸いです。笑

 

<参考文献>

1. Hoffman, J. R., Vazquez, J., Pichardo, N., & Tenenbaum, G. (2009). Anthropometric and Performance Comparisons in Professional Baseball Players. The Journal of Strength & Conditioning Research, 23(8), 2173–2178.

2. Mayberry, J., Mullen, S., & Murayama, S. (2020). What Can a Jump Tell Us About Elbow Injuries in Professional Baseball Pitchers? The American Journal of Sports Medicine, 48(5), 1220–1225.

3. Chelly, M. S., Hermassi, S., & Shephard, R. J. (2010). Relationships between Power and Strength of the Upper and Lower Limb Muscles and Throwing Velocity in Male Handball Players. The Journal of Strength & Conditioning Research, 24(6), 1480–1487.

#38 [論文] サイドスローはオーバースローに比べて怪我をしやすい?

いくつか前の投稿でチェンジアップが他の球種に比べて肩肘がうける負担が少ないという論文を紹介しましたが、今回はオーバースローサイドスローメカニクスの違いについての論文を紹介します。

ちなみに結論から言うと、どちらの投げ方の方が負担が少なく怪我のリスクが低いのかは、今のところはっきりしていません。

なんじゃそりゃと思われるかもしれませんが、各論文で報告されている結果がそれぞれ違うのでなんとも言えないといった感じになってしまいます。もっとたくさんの研究が今後されれば将来的には明らかになる可能性があります。

オーバースロー、スリークオーター、サイドスローの投球メカニクスの違い」という論文では、アメリカのメジャーやマイナーの投手たちを被験者(実験のデータ測定のために実験台となってくれる人たち)になってもらい、リリースの瞬間の腕の角度を基に彼らをオーバースロー、スリークオーター、サイドスローの3つのカテゴリに分類して、それぞれのグループの投手たちが記録した腕にかかるストレスと全身の動きをスーパースローカメラで撮影して分析しています。

分析の結果、球速自体にグループごとの違いは無かったものの、リリースの瞬間の肘にかかる力はサイドスローのグループが最も低く、ついでオーバースロー、スリークオーターの順にストレスが低かったそうです。

そして、そのリリースの瞬間の体のメカニクスを分析したところ、この違いを生んだ可能性のある動きは、チェンジアップの記事で紹介したものと多少かぶる部分もあります。

胴体部の前傾角度がオーバースローのグループの方が大きかったこと、肘の屈曲角度が大きかったこと(肘がより曲がっていた)、前腕の内側へのひねりの角度が小さかったことの3つが考察として言及されています。

 

これらの結果とは対照的に、「野球の投手における肘にかかるストレスと投球メカニクスの関係」という論文では、サイドスローの投手の方がオーバースローの投手よりも肘に受ける負担が少なかったという結果を報告しています。

この論文と先ほどの論文で明らかになった投球メカニクスの違いについてはほとんどの点で同じ結果を報告しています(胴体の前傾角度や肘の屈曲角度など)。ところが、計測された肘にかかるストレスだけが違う結果を示しています。

この2つの論文だけでなく、他の論文でもこのオーバースローサイドスローの肘の負担の違いについては議論がされていますが、同様にそれぞれが違う結果を報告しているので、現時点ではどちらともつかないという状況となっています。

今後研究が進んでいく中で、どちらが負担が大きいのか、あるいは違いはないのかが明らかにされていくのを楽しみにしておきましょう。

 

<参考文献>

Aguinaldo, A. L., & Chambers, H. (2009). Correlation of throwing mechanics with elbow valgus load in adult baseball pitchers. The American journal of sports medicine37(10), 2043-2048.

Escamilla, R. F., Slowik, J. S., Diffendaffer, A. Z., & Fleisig, G. S. (2018). Differences among overhand, 3-quarter, and sidearm pitching biomechanics in professional baseball players. Journal of applied biomechanics34(5), 377-385.

 

 

#37 ソフトバンクの強さの秘密はフィジカルだった!らしい

ソフトバンクが今年の日本シリーズで巨人に圧勝して4年連続で日本一になりましたが、玄人素人含めいろんな人がソフトバンクが、あるいはパリーグがなぜこんなに強いのかをいろんな視点からネット上を中心に議論しています。

DH制があるかどうかの違いだとか、ドラフトの抽選でいい選手がパリーグに流れているだとか様々意見はありますが、11/29にメジャーリーグ、シカゴカブスダルビッシュ選手が自身のYouTubeチャンネルで面白い見解を述べていたのでそれをここで紹介したいと思います。

 

結論から言えば、ダルビッシュ選手によればソフトバンクはもう15年くらい前からウエイトトレーニングとそれに加えてサプリメントの管理を徹底して行なっていたようで、それが今の強さに繋がっているんじゃないかとおっしゃっていました。当時は十分な大きさやクオリティのウエイトルームを持っていない球団もある中で、ソフトバンクはしっかりとウエイトルームを整備して、サプリメントも選手個人個人が必要なものをしっかりと供給するという仕組みが既に2005年頃からあったようです。

これを聞いて僕が何を思ったかというと、やっぱり技術云々以前にフィジカルは前提条件だよなということと、これを高校野球に当てはめて考えるとどうなるだろうか、ということです。

全国に名の通った名門校と呼ばれる高校ですらいまだに走り込みや長時間練習を強いているところが多い中で、いわゆる無名校と呼ばれる学校が名門校を倒すためのヒントがここにあるんじゃないかと思いました。このブログでも何度も言っていますが、ウエイトトレーニングと栄養指導、そして練習時間を短縮して休養をしっかり取れば、無名校でも名門校に勝てるチャンスが生まれるのではないでしょうか。

体というのは運動・栄養・休養の3条件をしっかりと揃えることで飛躍的に成長します。それは僕自身が1年間トレーニングをきっちりやってみて体感したことでもあります。練習の無駄を削って工夫をすれば、練習時間を短縮できて休養にあてる時間も増えると思いますし、強豪校みたいに何もお金を払って専門家を雇わなくても、指導者の方が自身で勉強をすればトレーニングメニューや栄養条件もきちんと整えることができると思います。例えお金のない公立高校だとしてもそれを言い訳にせずに、指導者自身が正しい方向に努力をして選手のフィジカルを徹底して正しく鍛えれば、多いに甲子園に出るチャンスはあると個人的には思います。

偉そうに口だけでこんな理想論を語っていてもしょうがないので、僕なりに思う練習の改善策をいくつか具体的に紹介してみます。皆さんもぜひ自分なりに案を考えてみてもらえればと思います。

 

1. ウォーミングアップ簡略化

みんなで足を揃えてジョギングするところから始まって、ストレッチやアジリティなどウォームアップがあまりに長い高校が多いです。無駄があまりに多いので、ストレッチ等は種目を厳選して本当に必要な数種類と最後スプリント系を入れればそれで良いんじゃないかと思います。個人的には若い高校生のアップは10分でも十分だと思います。

 

2. シートノック・フリーバッティング廃止

待ち時間があまりに長いこの2つは練習を長くさせる大きな要因なので、ノックはなるべくポジションごとに数人でやらせて(例えば二遊間と一三塁と外野にグループ分け)、フリーバッティングもケージがあればその中で個人的に行わせるようにします。もしこれらのメニューを行うにしても待ち時間に他の何かしらのメニューをこなすようにする工夫が必要だと思います。

 

3. タッパー飯廃止 / 3時間おきに間食(タンパク質+おにぎり)

タッパーに白米を山盛り詰めて、過剰に食べさせる指導は食育とは呼びません。ただのデブ活です。かといって別に彩り鮮やかなおいしいお弁当を毎日作ることを保護者の方にお願いする必要はなくて、極端に言えば鶏胸肉を丸ごとレンジでチンして塩胡椒をふればそれがおかずでも良いので、とにかくタンパク質の摂取量を増やして炭水化物と脂質の摂取量を適量に抑えることが大事になります。

また、一度にタッパー飯でドカンと食べるのではなくて、練習の合間に間食タイムを作ってその時間にちびちびとプロテインプロテインが金銭的に余裕がなければゆで卵等でもOK)やおにぎり等でタンパク質と炭水化物を取るようにします。そうすることで食時間の間に体内の栄養素が枯渇して筋肉が分解されることを防ぐことができます。そういった意味ではタッパー飯をちびちび食べるのであれば、お弁当を違う容器やラップに詰める保護者の方の負担も減るのでそれでも構いません。大事なのは食べるものとタイミングです。

 

4. 1日の練習時間は長くても5時間

5時間でもちょっと長いんじゃないかなとは思いますが、とは言っても技術練習もある程度は必要ですし、ノックしてバッティングして走塁をして等々していると週末はそれくらいの時間は必要になるかもしれません。それでも全体練習は最大で4~5時間に収めたいところです。それ以上は選手個人の判断で個人練習等はしても構わないと思います。

 

まだまだアイディアはあるのですが、まあこれくらいにしておきます。とにかく個人的に大事だなと思うのは運動・栄養・休養の原則をきちんと守って、野球の技術練習や精神トレーニンングは二の次に回して、とにかくフィジカルに全振りして高校生を鍛えていくことです。そうすれば何年もかけてソフトバンクが黄金期を迎えたように、今は無名の学校でもたくましい選手が育って強豪校とも渡り合える馬力のあるチームになるんじゃないかなと思います。また、選手たちの将来のことを考えても技術は後からいくらでも練習できるので、まずは怪我をしにくい体の強さを若いうちから求めていく方が良いのではないかと思います。