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#38 [論文] サイドスローはオーバースローに比べて怪我をしやすい?

いくつか前の投稿でチェンジアップが他の球種に比べて肩肘がうける負担が少ないという論文を紹介しましたが、今回はオーバースローサイドスローメカニクスの違いについての論文を紹介します。

ちなみに結論から言うと、どちらの投げ方の方が負担が少なく怪我のリスクが低いのかは、今のところはっきりしていません。

なんじゃそりゃと思われるかもしれませんが、各論文で報告されている結果がそれぞれ違うのでなんとも言えないといった感じになってしまいます。もっとたくさんの研究が今後されれば将来的には明らかになる可能性があります。

オーバースロー、スリークオーター、サイドスローの投球メカニクスの違い」という論文では、アメリカのメジャーやマイナーの投手たちを被験者(実験のデータ測定のために実験台となってくれる人たち)になってもらい、リリースの瞬間の腕の角度を基に彼らをオーバースロー、スリークオーター、サイドスローの3つのカテゴリに分類して、それぞれのグループの投手たちが記録した腕にかかるストレスと全身の動きをスーパースローカメラで撮影して分析しています。

分析の結果、球速自体にグループごとの違いは無かったものの、リリースの瞬間の肘にかかる力はサイドスローのグループが最も低く、ついでオーバースロー、スリークオーターの順にストレスが低かったそうです。

そして、そのリリースの瞬間の体のメカニクスを分析したところ、この違いを生んだ可能性のある動きは、チェンジアップの記事で紹介したものと多少かぶる部分もあります。

胴体部の前傾角度がオーバースローのグループの方が大きかったこと、肘の屈曲角度が大きかったこと(肘がより曲がっていた)、前腕の内側へのひねりの角度が小さかったことの3つが考察として言及されています。

 

これらの結果とは対照的に、「野球の投手における肘にかかるストレスと投球メカニクスの関係」という論文では、サイドスローの投手の方がオーバースローの投手よりも肘に受ける負担が少なかったという結果を報告しています。

この論文と先ほどの論文で明らかになった投球メカニクスの違いについてはほとんどの点で同じ結果を報告しています(胴体の前傾角度や肘の屈曲角度など)。ところが、計測された肘にかかるストレスだけが違う結果を示しています。

この2つの論文だけでなく、他の論文でもこのオーバースローサイドスローの肘の負担の違いについては議論がされていますが、同様にそれぞれが違う結果を報告しているので、現時点ではどちらともつかないという状況となっています。

今後研究が進んでいく中で、どちらが負担が大きいのか、あるいは違いはないのかが明らかにされていくのを楽しみにしておきましょう。

 

<参考文献>

Aguinaldo, A. L., & Chambers, H. (2009). Correlation of throwing mechanics with elbow valgus load in adult baseball pitchers. The American journal of sports medicine37(10), 2043-2048.

Escamilla, R. F., Slowik, J. S., Diffendaffer, A. Z., & Fleisig, G. S. (2018). Differences among overhand, 3-quarter, and sidearm pitching biomechanics in professional baseball players. Journal of applied biomechanics34(5), 377-385.