野球の未来

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#41 体を大きくする(バルクアップ) 実践編

前回に引き続いてバルクアップについて、今回は実践編という事で、実際にどのような食生活を送れば良いのかについて僕なりにアイディアを提案していきたいと思います。

ポイントとしてはターゲットがプロなどではなく高校生であるという事(トレーニング初心者で、かつ経済的な余裕もプロほどでは無い)と、ご飯を作らなければならない親御さんの視点にも立って、理想と現実の妥協点を探りながら考えていきます。

まず朝ですが、起きたらすぐにホエイプロテインを水で割って飲みます。寝ている間に体内の栄養素が枯渇しているので、筋肉が分解されるのを防ぐためにも素早く体に吸収される水にプロテインを溶かして飲んでください。このときに牛乳や豆乳でシェイクを作ってしまうと、体内に吸収されるのが遅れる事、そしてお腹を下してしまう可能性があることから、水で割ることをお勧めします。

そして20−30分後にプロテインシェイクが体内に吸収されてから朝食を取れれば理想です。朝ギリギリにしか起きられないという人は、プロテインと食事が一緒になってしまっても最悪オッケーです。

朝食には、パンでもご飯でも好きなものでいいので主食となる炭水化物は必ず入れてください。朝から食べられないという人はバナナでも構いません。とにかく炭水化物を摂って、体を動かす”ガソリン”を体内に入れることが大事です。ここにおかずとしてお肉があれば、朝食としては完璧です。

お弁当には昼食用のお弁当に加えて、鶏そぼろや鮭などタンパク質を多く含む具材のおにぎりを2−3個持たせてあげられれば、朝と昼の間と、昼と夜の間(おそらく練習後)の間食として食べられるのでいいと思います。理想としては3時間おきに栄養が体に入れば筋肉を失うことはありません。

昼食用のお弁当の中身としては、炭水化物(米やいも等)とタンパク質(肉、魚、豆類)をしっかりと入れてください。野菜に関しては、特に入ってなくても構いません。野菜はほとんどが水分で、そこに微量の栄養素が入っているだけなので、バルクアップにおいては特に必要なものではありません。むしろ水分でカサ増しされてしまって、食べられる量が減ってしまいます。また、お弁当の彩りを気にする方も多いとは思いますが、無い方がかえっておかずを作る手間も省けますし、野菜は無駄に入れない方が実は選手にとっても親御さんにとってもウィンウィンになります。

夜ご飯も基本的には同様に、炭水化物とタンパク質をしっかりと補給できる献立にすれば良いのですが、ここで魚をメニューに入れると練習で疲労した筋肉の回復を助けてくれるので、より良いメニューになります。

最後に寝る前にホエイプロテインを飲んで1日の栄養摂取は終わりです。ここでは水割りでも、牛乳割りでもお好みで良いと思います。ただコーヒーなどカフェインを含むもので割ってしまうと、睡眠を阻害してしまうのでそれはお勧めできません。

 

各食事ごとの炭水化物とタンパク質の摂取量については体重にもよりますが、できればお茶碗2杯分(大体1−1.5合ほど)のお米と150gほどのお肉や魚(タンパク質20−40g)を朝昼晩と各食事で摂取できればいいかと思います。

とにかく目標は、体重1kgあたり2g以上のタンパク質の摂取と、総摂取カロリーの20−30%くらいの脂質、そして残りを炭水化物で補うという目安をクリアする事になります。

脂質については通常の食生活を送っていれば、ジャンクフードや揚げ物ばかりを食べない限りは大体25%前後に自然に落ち着くはずなので、特に気にして考えなくても良いと思います。

集中すべきはタンパク質の摂取量と総摂取カロリーが推定の消費カロリーを超えているかどうか、になります。面倒かもしれませんが、初めのうちはタンパク質の摂取量が足りているかどうかを、食べた食材のタンパク質含有量を調べてチェックすることをお勧めします。慣れてくると大体感覚でわかってくるので、この作業は必要ではなくなります。

また、毎朝起きてすぐに体重の変化をチェックすることは継続して行う必要があります。体重の増え方によって毎日の摂取カロリーが十分かどうか、あるいは行き過ぎていないかをチェックできます。

 

次にサプリメントについてです。サプリメントの種類は無限にありますし、僕もまだまだ勉強しているところですが、高校生の段階でも摂って欲しいサプリを3つピックアップしました。

まずはホエイプロテインです。これは既に1日の食生活の流れのところでも挙げましたが、マストになります。激しい練習で筋肉の分解が進んでしまうので、きちんとタンパク質を補給しないと体は大きくなりません。タイミングとしては朝起きてすぐ、ウエイトトレーニング前か後、そして寝る前になります。この3回取れれば理想的かと思います。

ちなみに、プロテインパウダーというのはチーズを作るときに同時にできる上澄み液からできているので、薬品ではないですし、極めて安全な食品由来の製品になります。国際栄養学会でも安全性のランクはトップのAクラスと判定されています。

2つ目のサプリメントクレアチンです。聞き馴染みの無いものかもしれませんが、これもプロテインパウダーと並んで安全性Aランクに分類された物質で、牛肉に微量含まれていますが、十分ではありません。1日に5g摂取する事で筋力アップや筋肉の回復などを促進してくれるので、効率的に体を大きくできます。また、何度も強調しますが決して危険な化学薬品などではありません。クレアチンを取るタイミングとしては特に指定はありません。1日のうちのどこかで2−3回に分けて合計5g補給できると良いです。

3つ目はマルチビタミンになります。前回の理論編で書いたように、ビタミンやミネラルというのはタンパク質を筋肉細胞内に取り込んで筋肉を作るのを助ける働きがあるため、非常に大切な栄養素になります。これが無いと大量のタンパク質が体内に入ってきたときに、うまく筋細胞内に取り込めず、体の外に流れ出ていってしまいます。また、野菜など食品からは十分な量を摂取できないので、サプリメントで補給する必要が出てきます。マルチビタミンサプリメントにはその名の通り複数種類のビタミン(マルチ)が含まれていて、これ一つを買えば基本的にはある程度の量のビタミンを錠剤で補給できます。摂取のタイミングとしては食後に必要量を取れれば良いと思います。必要な量はマルチビタミンのメーカーや種類によっても変わってくるので、その指定に従ってください。

ちなみに、例えばビタミンCを必要量食べ物から摂取しようとすると、毎日レモン丸々一つを食べないと追いつかないほどです。これを考えるとすべてのビタミン(A B C D等)を食べ物から取るのは現実的では無いですよね。笑

以上が厳選した、高校生でも摂ってもらいたいサプリメント3つです。どれもサプリメントの中では比較的安く買えるのでお勧めです。3種類全て買っても月に5千円もかからないと思いますし、3種類とも現在学生の僕でも十分生活費の予算の範囲で買えているものになります。

 

ここまで2回にわたって高校生が体を大きくする方法について考えてきました。僕の専門は栄養学やトレーニング学ではなく動作解析なのですが、野球のピッチングやバッティングでパフォーマンスを左右する特定の動作をできるかどうかは筋力に依存することがかなり多いです。どういうことかというと、筋力のない選手は良いパフォーマンスがしたくてもできないということです。ピッチングを例に挙げると、投球時のステップ幅は広いほうが良い(身長の85%ほど)のですが、下半身の筋力が弱いアマチュアの選手はこの85%のステップ幅で投球することができないのです。つまり野球というスポーツは、技術を磨く時ですらフィジカル的な強さが必要条件になります。これは個人的な考えですが、フィジカルの強さは技術的なうまさを遥かに凌駕すると思いますし、特に高校生の段階においては技術を磨くよりもフィジカルを強化することで、結果として選手としてレベルの高いところに到達できる可能性が上がるのでは無いでしょうか。ぜひ、運動栄養休養の3つをしっかりと管理してフィジカルを伸ばしてもらえればと思います。

それでは。