野球の未来

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#39 今後の論文レビュー記事の方向性と執筆中の卒業論文のテーマについて

こんにちは。今回は今後のブログ記事の方向性について、最近の近況について紹介しつつ書いていこうと思います。

もしかしたらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ここ最近の僕が紹介する論文はピッチングに関するものが続いています。これにはいま僕が取り組んでいる卒業論文修士論文)が関係していて、その論文のテーマがピッチングのパフォーマンスについてなので、自然とピッチングについて書かれている論文ばかりをここ最近は読んでいるからです。そのおかげもあって、随分とピッチングの研究については知識が増えました。

ということで、これからの論文レビュー記事はピッチングばかりになっていくと思いますが、何卒よろしくお願いします。今後バッティングについての論文も興味が湧けば読むこともあるかもしれないので、その時はしっかりとこのブログで記事にまとめるようにします。

 

ここからはざっくりと僕の卒論のテーマについて、いま頭の中に入っている情報を噛み砕いて紹介していきます。

まず論文のテーマはというと、「垂直跳び時の下半身のパワー発揮と、投球時の下半身と体幹部の動き及びパワー発揮との関係について」となります。これには垂直跳びテストのデータから、その投手の実際の投球パフォーマンスを予測することはできるのかということについて明らかにしたいという目的があります。

メジャーリーグのおそらくほぼ全ての球団では、シーズン前の春季キャンプで全選手の身体能力テストを行うのですが、その中に垂直跳びはほぼ必ず含まれます。野球以外のスポーツ、例えばアメリカンフットボールの新人合同トライアウト(通称NFLコンバイン)なんかでも垂直跳びテストは取り入れられています。

その垂直跳びテストの結果が投球パフォーマンスと関係しているというのであれば、今後もこのテストは続けていくべきですが、逆になんの関係もないとなると野球選手に対して続ける意味はないのではないかという結論が得られます。

これまでの研究では、野手に関しては垂直跳びで測定された下半身のパワー発揮とその選手の長打率、ホームラン数、盗塁数などとが相関関係にあることが分かっています。つまり垂直跳びテストにおいて下半身でより大きなパワーを発揮した選手は、ここで挙げた野球のパフォーマンスの指標も良い成績だったということです (*1; 参考文献参照)。

ちなみに「垂直跳びで計測される下半身からのパワー」というのは、ジャンプの高さだけでなくその選手の体重や身長も加味されて計算されます。つまり小柄な選手が高く飛んだからといって、それよりも低いジャンプをした大柄な選手よりも大きなパワーを発揮したかというと、決してそういうことはなく、その他の身体情報も踏まえて「パワー」というものが算出されるのです。

さて本題に入りますが、これがどうピッチングパフォーマンスに影響するかというとそれがまだ分かっていないのです。だからこそ、僕が研究テーマとして扱うことができるという一面があります。

今のところ分かっている事としては、垂直跳びにおけるパワー発揮の結果から投球によって起きる怪我のリスクがある程度予測できるそうです。一例を挙げると、垂直跳びは一旦しゃがみ込んで反動をつけてからジャンプしますが、そのしゃがみ込んだ状態からジャンプの踏切までの間に下半身で発揮するパワーが小さい選手は肘の故障リスクが高いそうです (*2)。ただ、ここで皆さんが「なぜ?」と思ったように、どうしてこういったことが起こったのかはまだ分かっていません。どうして下半身のパワーを測定する垂直跳びの結果と肘の故障が関係するのか、不思議ですが面白いと思いませんか?

おそらく下半身のパワー発揮が小さいと、上半身(特に腕)でその分の不足している投球に必要なパワーを補う必要があるので、上半身の投球メカニクスをどうにか変化させた結果、肘に過剰なストレスがいったという「推察」はできますが、じゃあ具体的にどこがどう変化したのかがまだ分からないので、そこを僕が今回発見できればと考えています。

また、怪我ではなくパフォーマンスとの関係としては、垂直跳びでの結果が投球時の球速とどう関係しているかについて報告した研究は今のところありません。ちなみにハンドボール選手を対象とした研究では、下半身のパワー発揮とハンドボールの投球の速度が比例していることは確認されています (*3)。やはり、下半身で大きな力を生み出すことが投球パフォーマンスにおいて有利になることは間違いなさそうですが、野球選手を対象にした研究も行っていく必要があります。

 

以上がざっくりとした僕の研究の背景です。かなり込み入った情報を書いてしまいましたが、理解できる方が少しでもいらっしゃれば幸いです。笑

 

<参考文献>

1. Hoffman, J. R., Vazquez, J., Pichardo, N., & Tenenbaum, G. (2009). Anthropometric and Performance Comparisons in Professional Baseball Players. The Journal of Strength & Conditioning Research, 23(8), 2173–2178.

2. Mayberry, J., Mullen, S., & Murayama, S. (2020). What Can a Jump Tell Us About Elbow Injuries in Professional Baseball Pitchers? The American Journal of Sports Medicine, 48(5), 1220–1225.

3. Chelly, M. S., Hermassi, S., & Shephard, R. J. (2010). Relationships between Power and Strength of the Upper and Lower Limb Muscles and Throwing Velocity in Male Handball Players. The Journal of Strength & Conditioning Research, 24(6), 1480–1487.