野球の未来

野球×科学

#7 [論文] 20秒で(打者の)スイング速度と(投手の)球速を上げる筋トレ

一瞬で少しだけ筋肉を覚醒させる筋力トレーニングを紹介したいと思います。これをすれば瞬間的に打者で言えばスイング速度、投手で言えば球速が"ちょっとだけ"上がります。笑

それはズバリ「活動後増強(post-activation potentiation)」と呼ばれる瞬間的かつ一時的に筋力値を引き上げる筋肉の生理的反応を野球の動作に応用する方法です。これは実は僕の学部生時代の卒業論文のテーマでもあるので、その時に使った写真も交えながら説明していこうと思います。笑

前置きが長くなりましたが、本題に入りましょう。まずはこの写真をみてください。

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このような実際のバッティングフォームにおけるトップの状態で片手ずつ、壁やフェンスにくくりつけた非伸縮性のロープを最大の80~90%程度の力で5秒間引っ張り続けます。これをそれぞれの腕で2セット、合計4セット(計20秒)行います。

そうすると、この運動に筋肉が反応を起こす形で、バットを振る時に必要な筋肉が5~10分間程度ある種の"覚醒状態"に陥ることでスイング速度が1~4%ほど(個人差あり)向上することがわかっています。

 

同じように、ピッチングでボールをリリースする段階のフォームで合計20秒のトレーニングを行えば球速が上がることも期待できると言えるでしょう。

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参考:リリースの瞬間のフォーム

 

この活動後増強という現象は、短時間で爆発的な力を必要とする動作において起きるので、野球以外にも例えばウエイトシャフトを担いでジャンプスクワットを行ってから100m走を走ればタイムが少し上がることも他の論文で明らかになっています。

 

ただ、この活動後増強の大きな弱点は効果がせいぜい5分しか続かず、スイング速度で言えば最大でも4%程度しか向上しないことです。ですので、例えばネクストバッターズサークルに入る直前にベンチ裏等で行うことも可能ですが、その効果については気休め程度に考えてもらいたいと思います。笑

ただ、実際に長期的にトレーニングをして4%スイング速度をあげようと思うと結構大変だと思うので、一瞬でそれだけ向上できるというのはなかなか画期的なのではと個人的には感じている次第です。

ちなみに、僕自身がこのトレーニングを行ったところスイング速度は128km/hから133km/hまで上がりました(約3.9%向上)。

また、投手の球速の変化についてはまだ検証をした論文は無いので、もし試してみた方がいれば結果をぜひ教えていただけるとすごく参考になるので、よろしくお願いします。

 

<参考文献>

Higuchi, T., Nagami, T., Mizuguchi, N., and Anderson, T. (2013) The acute and chronic effects of isometric contraction conditioning on baseball bat velocity. The Journal of Strength & Conditioning Research,27 (1): 216-222.

野球のスイング速度におけるアイソメトリックトレーニングの即時的、長期的効果